「またこれに参加するってほんと?」

 手を伸ばしなるべく視界に入るように突きつける。視線を逸らされないように、話題を変えられないように威圧的に。
 答えはいたってシンプル、逃げることなく二言で返ってきた。

「ああ」


 の持つ『The King of Iron Fist Tournament 6開催』のチラシを手で払いベッドに腰掛けるブライアン。手に持つ紙袋を床に落とすと横になり目を閉じる。さも当然という風にあしらわれいらつく。これほど重要なことを何故今まで隠していたのかと目に炎がともる。

「なんでわざわざ…こんな、……ただの晒し者じゃんか!」
「……それで」
「ただでさえ色々とあるのに…卍党とか三島とか……ってこれ三島主催じゃん!!本気でこれに出るつもり!?」
「さっきも言っただろう」

 俺の勝手だ、そう言われればもう何も言えない。ブライアンの行動を縛る権利なんてない。でもこれは余りにも危険な事態だ。世界中の注目の的になりにいくのだ。逃亡生活を続ける自分たちにとって、特にブライアンにとっては死活問題だ。そんな場所に何故自ら飛び込んでいくのか。

「……納得いかないですよ」
「まさかそんなに反感を買うとはな」
「だって!……だってこの大会、おかしいもん…」

 はチラシに視線を落とす。先程の買い出しで道端に落ちていたものを拾ってきたので紙はぼろぼろ、色も若干変色している小汚いもの。それでもそれははっきり書いてあった。

「“生死は問わない”……これって殺しもありってことなんでしょ」
「当然だろう」
「……どうすんの、ブライアンが壊されちゃったら、どうするの……」
「俺が負ける前提か」
「心配してるんだって!」

 頑丈で永久機関持ちの最強レプリカント、ブライアン。しかしアベル博士曰く完成形ではない。それはいつどこで何によって壊れるかわからないことを示している。もしブライアンが損壊した場合、だけでなくボスコノビッチ博士にだって直せる保証はないのだ。

 もしも、……そう考えるだけで震えが来る。

「怖いって言ってるの…」
「今日は随分と女々しいな」
「…うるさい機械脳」
「生憎その部分は生だ」

 はチラシから指を離しブライアンへ伸ばす。傷付けないように頭部へ腕を回し抱きしめた。ブライアンは生だと言っていたが、この中にどれ程の技術が詰まっているのか今のには到底理解できない。

 腕の中の頭部が上を向く。ひどく至近距離で目線が合うとは目を閉じ、額をこつりと合わせた。無機物へ熱が伝わる。向こうからは人が持つはずの無い、低い温度が返ってくる。機械が熱を持って動いている証拠。
 目を薄ら明ければ未だ見上げてくる視線。それが愛しくて壊れてほしくなくて、願いを込めて額に唇を落とす。軽く、ほんの少し触れる程度に。その後、肩に顔を埋めながら上半身をきつく抱きしめた。

「クク、今日は大胆だな」
「…うるさい」
「口は優勝記念にでも取っておくか」
「…壊れたりしたら本当に許さないんだから」
「ククッ、誰が」

 腰にまわされた腕がの身動きを取れなくした。びくりと震えたにふ、と笑ったかと思えばふわり浮くの体。次の瞬間にはぎしりという音とともにブライアンが下になる。

「……バックドロップされるのかと思った」
「終わったら好きなだけやってやるよ」


トーナメントの前に


 太く逞しい腕で全身を抱きしめられる。胸の永久機関の音に耳を傾けながら、ただ壊れないことを祈るしかできなかった。


End